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2007年10月30日 (火)

ケンムン

昨年与論島に旅行した時、与論民俗村の菊さん(ご主人)に昔よく出た化け物の話をお聞きした。当時書いた旅行記では、「夜道を歩いているとまわりにたくさん寄ってきた。また、漁師が魚やタコをとってくると、目の玉だけをイサスがとっていってしまったものだという」という聞き書きを載せたが、この「イサス」という言葉の聞き取りに自信がもてなかった。帰っていろいろ調べてみたが、どこにも件の名前の妖怪の話は出ていなかったからだ。話を聞いた時には二度も確認して、確かにそう聞いたのだが…。
ところが先日、田畑英勝著『奄美の民俗』(法政大学出版局、1976年)を読んでいたら、ようやくそれらしき妖怪が姿を現した。

イシャトゥ
大島のケンムンに性格がよく似ている。体格は小さく、子供くらいという。夜いざりをする。魚の目を抜きとったりする点も似ているが、人はだまさない。火になって飛ぶともいわれており、ハタパギと同じともいわれている。

なるほど、聞き取りは間違いではなかった。幻の「イサス」はやはり存在していたのだ。
与論の闇は濃かった。昭和30年代にようやく電気の引かれた与論では、今もケンムンのいきれがそこここに残っている。遠い海原のむこうから寄りついた神は、闇夜の中でだけその息吹を聞かせてくれるのだ。闇を消し去ることばかりを追い求めている都会に住む者として、ケンムンの息吹にかえって明るいものを感じたことを、今思い出した。

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